熱中症リスクの予測で熱中症のない社会を目指す

近年社会問題にもなっている熱中症を予防するために、熱中症リスクの啓発は重要な課題です。私たちの研究室では工学的視点に立ち、「リスク評価」と「リスク管理」の両側面からこの課題に取り組んでいます。

熱中症のリスク評価

年齢によって変わる人の体温調節機能、服装、活動といった要素を考慮した上で、電磁界(太陽光)や熱による物理現象から熱中症リスクを評価するために、電磁界解析技術と熱解析技術を融合したオリジナルのプログラムを応用しています。

このプログラムの特徴の一つは、人の体温変化のシミュレーション結果を視覚的に捉えられる点です。例えば、3歳、25歳、65歳の人が気温37.5℃、湿度60%の室内で90分間安静に過ごした場合を見てください。全身の温度分布がひと目でわかり、幼児や年配者の体温が上昇しやすく熱中症リスクが高いことが一目瞭然です。

このプログラムを基盤技術とし、日本気象協会と東北大学との共同プロジェクトも行なってきました。日本気象協会の気象データと東北大学のスーパーコンピューターを組み合わせ、ウェブコンテンツ熱中症セルフチェックを作成しました。GPSなどの通信技術も使われています。

熱中症のリスク管理

リスク評価で培った技術にIoT(Internet of Things:モノのインターネット)やAI技術で注目される機械学習を組み合わせ、自分の熱中症リスクを自分で管理する「セルフメディケーション」や大勢の人の熱中症リスクをまとめて管理する「リスクの一括管理」に応用しています。

セルフメディケーションは、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを用いて、心拍や血圧などのデータを取得し、スマートフォン上で体温上昇や発汗量を推定します。これを応用したのがリスクの一括管理です。イベントや職場など大勢の人が集まる場所で、一人ひとりの身体データを取得しクラウド上で解析すれば、集団としての体温変化や発汗の傾向を把握、適切な空調温度や休憩時間の設定に役立てることができます。

医療機関にも熱中症リスクを周知

さらに、気象予報から熱中症の搬送者数を予測する技術も開発中です。過去に実際に搬送された人のデータと解析で蓄積したデータを用い、機械学習という統計学処理を行なうことで実現しています。

2019年10月現在、搬送者数の予測の精度は70-80%です。2018年7〜8月の東京の熱中症搬送者の予測を行なうと、大まかな傾向を捉えることができました。

現在、予測のさらなる高精度化を目指し開発を続けています。将来的には、市民へのリスク啓発に加え、医師や救急車の事前手配に活用されることを期待します。